監督ホン・サンス×女優キム・ミニ 7度目のタッグ作品で、第70回ベルリン国際映画祭監督賞(銀熊賞)を受賞した作品。
ヒロインと3人の女性との会話劇を通して、人生の本質や彼女たちの決意が見えてくる!
キャスト、あらすじ、感想、解説、考察などをまとめました。
(トップ画像公式ページより)
逃げた女【韓国映画】キャスト一覧
韓国にて公開(日本公開日2021年6月11日)
上映時間:76分
監督・脚本・編集・音楽・PD:ホン・サンス
「次の朝は他人」「ソニはご機嫌ななめ」
「自由が丘で」「夜の浜辺でひとり」など
【ガミ役】キム・ミニ
夫が出張中の女性。
【ヨンスン役】ソ・ヨンファ
バツイチの先輩。
【スヨン役】ソン・ソンミ
独身の先輩。
【ウジン役】キム・セビョク
偶然再会した旧友。
【チョン先生役】クォン・ヘヒョ
ウジンの夫。
世界中の映画祭において高い評価を得続けているホン・サンス監督の24作目となる作品。
本作も2020第70回ベルリン国際映画祭にて監督賞(銀熊賞)を受賞しています。
主演は監督のパートナーでもあるキム・ミニさん。
ホン・サンス×キム・ミニ作品はこれまでに8本あり、2015年「正しい日 間違えた日」(ロカルノ国際映画祭グランプリ受賞)、2017年「クレアのカメラ」「夜の浜辺でひとり」(ベルリン国際映画祭銀熊賞”主演女優賞”受賞)「それから」、2018年「草の葉」「川沿いのホテル」、そして本作と2021年「イントロダクション」(ベルリン国際映画祭銀熊賞”脚本賞”受賞)と、ベルリン国際映画祭で3度も銀熊賞を受賞しています。
キム・ミニさんは他にも、パク・チャヌク監督作品「お嬢さん」で高い評価を得ています。まさに、韓国を代表する国際的女優の1人と言えますね。
共演者もホン・サンス作品の常連が多く、「正しい日間違えた日」「夜の浜辺でひとり」など7作品に出演するソ・ヨンファさん、数多くのテレビドラマなどでも活躍しつつ「次の朝は他人」なと5作品に出演するソン・ソンミさん、助演した映画「はちどり」が世界的に評価され「それから」「草の葉っぱたち」など3作品に出演する出演するキム・セビョクさん、そして有名ドラマや大作映画にも数多く出演し「3人のアンヌ」など6作品に出演するクォン・ヘヒョさんといった実力派俳優が主演のキム・テリさんと対話を繰り広げています。
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逃げた女【韓国映画】あらすじ
夫が出張に出掛けたことで、5年間の結婚生活の中ではじめて夫と離れることのなったガミ(キムミニ)は、久々にソウル郊外で暮らす女友達を訪ねることにします。
バツイチで今は同性のパートナーと暮らしている先輩ヨンスン(ソヨンファ)、独身生活を満喫する先輩スヨン、そして映画館で偶然再会した旧友ウジン(キムセビョク)。
ガミは行く先々で「愛する人とは一緒にいるべき」という言葉を繰り返すのですが、彼女の発言は本心なのか?
友人たちとの会話と、それを邪魔する男たちの存在によって、ガミの中で何かが変わりはじめていき・・・。
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逃げた女【韓国映画】みどころ
本作は世界の映画祭で数多くの受賞歴を持つホン・サンス監督が、プライベートでもパートナーである女優キム・ミニさんと7度目のタッグを組み作り上げた話題作です。
夫が出張に出掛けている中で友人たちと久々に再会しようと考えた主人公ガミは、彼女たちとの何気ない会話を通して何かを確認しようとします。
結婚生活が円満だというガミの発言は真実なのか?会話の中で見え隠れする彼女たちの本心とは?
女性たちの愛や結婚についてを、会話劇の中に織り混ぜて描いた、実に”ホン・サンスらしい”ドラマです。
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逃げた女【韓国映画】感想・解説・考察
(※ネタバレあり!)
ヒロイン・ガミが何人かの知人と会って会話をするだけの作品。
ミニシアターなどで公開されるようなタイプといえばある程度想像がつくかもしれませんが、終始特に何も起きるわけではなく、ただ淡々とガミと知人とのやり取りが続くだけで、そこから何が感じ取れるかというもの。
妙なカメラワークとズームアップが印象的で、特に何かあったわけでもないのにそんな撮影をされると、何か意味があるんじゃないかと気になってしまいます。
学生が撮ったかのような感じもしますし、素人臭さを狙ったような気もするなど、基本カメラは動かないのにたまにそのような動きがあるから妙に引っ掛かります。
ストーリーは、ごくシンプルなもので登場人物についても会話の中から想像するしかないんですが、それが本作の醍醐味ともいえます。
最初に登場するヨンスンとは人と会いたくない、会うと疲れるという会話からはじまり、牛肉を食べると食べない、子牛が可愛かったかというどうでもいい話が続き、ガミの夫婦生活についても語られます。
ここで気になったのは、ガミとの久々の再会で「イカれた高校生みたい」とヨンスンが言い、その後かわいいと言い直したところ。
別にガミが怒ったりするわけではないものの冗談のようには聞こえず、この辺りのやり取りからもそこまで親しいようには見えません。
その上、ガミは長い髪がトレードマークだったのに、うっとおしかったからと家のお風呂場でバッサリとショートカット(ソバージュ風?)にしたというのです。
しかも自分で。これはプライベートで何かあったんじゃなかろうかと邪推してしまいます。それか単純にガミが変わったタイプだと伝えたいのか。
本作ではガミが女友達の家を訪ねる度に、おかしな男がやって来ます。
最初は猫に餌をやらないでくれと言いに来る最近引っ越してきたご近所さん。いわゆる野良猫を餌付けするなというよくある御近所トラブルなのかな。
ところがこのシーンは妙にリアルなのにどこか恐ろしく見えてしまうんです。
会話は噛み合っているようでチグハグですし、訪問者なんて玄関横にいる猫に対して、「飼い猫じゃなくて泥棒猫か?」と尋ねるんです。
普通なら「は!?何言ってるの!」と怒りそうなものですが、はいはいと何も響いてない様子で。
そのあと妙な間が空いて、猫のズームアップというのも意味深で、結局何が言いたかったのか。。
次に会うスヨンの前では、ヨンスンと会ったときと矛盾する行動を取るガミ。この二人は明らかに親しそうなのに、そこでもガミは同じ話をします。
それは夫婦生活は良好で、5年間常に一緒にいたというもの。今は夫が出張中だから離れたのは久々だと言うのですが、その独りの時間を活かして友人たちに会いに行ってるんですね。
ここでは、スヨンと一回寝ただけの男(詩人)が尋ねてきます。酔った際にたまたま夜を共にしたその男がストーカー行為をするようになり、玄関前で言い争いに。ヤバイ相手に関わってしまったなと、これも少し恐ろしく感じました。
ここでは独身を満喫している先輩の話を聞いて、どこか羨ましそうなガミが印象的でした。
最後に会うのは立ち寄った映画館で偶然再会した旧友ウジン。この二人は過去に何かあったようで、これまでとは違ったぎこちない再会となります。
何があったかは推測するしかなく、ウジンの夫がガミと元々付き合っていたのか、それともガミが好きだったのにウジンと結ばれたことで疎遠になったのか。
それとは別の問題があったのか、その内容については語られません。ただ、ウジンの夫であるチョン先生と出くわしたシーンを見ると、明らかにガミはチョン先生に対して何か思うところがあるようで。。
ですが、チョン先生の方は特に驚いてもいない様子で、ガミが思っているほど過去の出来事を気にしていない、もしくは自分の事しか見えてないようです。
ウジンは夫が成功するのが気に入らない、テレビで同じ話ばかりするのが嫌いだと言っているのに、チョン先生は「何でこんなところに来た?」とガミに言う始末。こんなところって奥さんの仕事場でしょうよ!こんな言い種からも二人の不仲が伺えますね。
このようにガミと友人たちとの会話を映した作品なんですが、作中でガミは「夫婦生活は良好だ、愛する人とは一緒にいるべき」と会う人会う人に語っています。
ですが、会話の端々や表情からは幸せなようには見えず、久々に会う友人たちに察して欲しい感じもしました。
彼女たちが幸せかどうかは別にしても、それぞれに選択して今を生きています。
しかし、ガミは結婚して5年一時も夫と離れていないと言っており、花屋の仕事も退屈だと愚痴っています。
「先輩は人生を楽しんでるみたいね。」
ガミがこうこぼすシーンがありますが、本人たちからすればそう思ってはいなくとも、人から見たら楽しそうに見える。
“隣の芝生は青い”ということなのかな。
まとめ:見る人によってはただ退屈なだけの映画なのかもしれませんが、実は登場人物の内面に注目すると面白く、見る人によって受け取り方が違ってくる作品なんです!
彼女たちの会話の中で共感出来るところがあるなら、何度か繰り返して見たくなることでしょう。ちなみに私は一回目見終わるとすぐにもう一度見直しました!!
最後に
「逃げた女」というタイトルからして意味深で、これは誰のことを指すのか?
ヒロインは口では夫との関係は良好だと言っていますが本当は逃げたがっているのだろうし、ヨンスンは離婚し同性のパートナーとルームシェアしている。スヨンは独身を満喫し男にも困っていない様子ですし、ウジンは旦那に不満があるようですがこの先どうなるかは分からない。
彼女たち全員を指すのではないのか??
「逃げる女」ならまだしも「逃げた女」という意味から察するに、既に逃げた後なんですよね。
こう考えると、ガミは夫が出張に行ったから友達に会いに来たのではなくて、既に夫の元から去り、逃げてきたのではないでしょうか?
この”逃げた”というのは気持ちだけのものなのかもしれませんし、実際に夫の元を離れたのかもしれません。
明確なところは分からないのですが、ラストで彼女が何かを覚悟したことは間違いないかと。